【不徳のギルド】第85話『夢から醒める時』――生きたいなら死に、死にたいなら生きる【ネタバレ感想】
キムジナー方面は無事に解決し、ホアンカの姿にフォーネとの会話を思い出したキムジナー。もうフォーネがいないと考えると切ないものの、温かい出会いでもあって……。
というなんだかんだで、「でもよかったなぁ」というシーンがあってからの、ハデスにかけられた愛する人の幻影。彼女の刃がハデスに刺さり、ハデスは傷を負ったのですが――。
で、今回はハデスの過去が出てきます。あの自戒の日の出来事。何があって、ハデスは村を追われたのか。
結構……胸に来る話なので、お覚悟を。
ますます囚われの爺さんたちのことがどうでもよくなる『不徳のギルド』の第85話、感想を今日も元気よくやっていきます。
今回は結構考察部分も多いので、本編内容だけ知りたい方は本誌を御覧ください。
そんな大盛りあがりのハデス編~最新刊(現:24/09/29)は↓コチラからどうぞ。
前回のあらすじ
ノマー! ノマノマノマー!
ノマはキクルから学んだことをうまく取り入れ、マナを温存しつつ持久戦に持ち込んでいた。しかしハナバタを人質にとられ、自身が捕らえられる……ものの、自分が取り込まれることも計算しており、吸ノ式を使って自身のマナは愚かキムジナーのマナをも減らすことに成功。
コインも見事バックスタブを使って気を引き付けることに成功し、このまま彼女たちが勝つかと思いきや、コインを止めたのはホアンカ。
自分という化け物を受け入れようとしてくれるホアンカにキムジナーはフォーネのことを思い出した。
幻術師であるワンダが神髄と呼ばれるジョブの奥義を習得していることが分かった。その神髄ならば神にも傷をつけられる。
幻の中で、ツチガミはフォーネと出会い、彼女の手によりツチガミは血を流す。
前話より
キムジナーとホアンカに癒やされる話。
今回のポイント
とりあえず爺さんたちを極刑にして欲しい。
- 20年前のカボクの村
- 突きつけられるのは、幻術ではなく現実
- 死にたいなら生きろ。生きたいなら死ね
- 女王様の『その時』を待ちわびる読者
またエース交代……?
さめる。醒める。冷める。
この過去の回想はマジでゲスくてつらいので注意。
20年前のカボクの村。
界樹の審判者、というのがカボクの村にも向かっているということでツチガミに助けてくれと願う村人たち。しかしもう参拝者も減って力をだいぶ失っているツチガミ。
頼み込んできている今ですら力が戻ってきていないということは、願いの中にツチガミへの想いはない、ということです。
本当に身勝手だが……現代でもそうだよなぁ。
困った時の神頼み。普段は信じてないのに。
悲しくなるツチガミですが、それでも人の形を保てているということは信じてくれている人もいるということです。そのためにできることを、とたった一人で巨大なその審判者に立ち向かっていくツチガミですが、その進路をそらすことしか出来ません。
ここで審判者とツチガミが対比的に描かれているんですが……絶望感が半端ない。
以前、プンプクからの説明を受けて「個人の力でどうにかできる規模じゃなかった」とヒュダイが言ってたが……これは無理だろ。
それでも犠牲者はゼロでいけたのですけれども、村人たちは審判者が村にやってきたのはツチガミという魔物を祀っていたせいだとツチガミを追い立てます。
中にはツチガミを守ろうとした人もいたんですが、自分たちの家や財産を失ったものたちは好き勝手にツチガミを責めただけでなく、弱った今なら狩れるのではないかとまで言います。
忘れられるのは覚悟していても、こんなにも敵意をぶつけられるとは思っていなかったツチガミ。絶望して、とうとう人間に敵意を抱いてしまい、魔除けに反応して苦しみ、完全に村を追い払われました。
説明自体は12巻に載っている72話の『脈動』です。
ちなみにここ、説明しながらプンプクが頭痛を覚えているのですが、この様子が……今回のカボクの人々に絶望して敵意を抱いたツチガミと似ている気もして。
もしかしたらプンプクって……? という疑惑が出てきます。
そんな伏線があるかもしれない72話を再確認したくなった方はぜひ↓コチラ↓からどうぞ。プンプクが表紙です!
こんな状態になるまで敵意を抱くことがなかった、というところがツチガミの優しさを物語っています。
参拝者が減って、寂しかっただろうけど敵意は抱かなかったんだな……。
ちなみにカボクの村はこの後、もう一度審判者が来襲し、ツチガミもいないカボクの村は土地だけでなく多くの人民がなくなり、媚びるように界樹教へ入信し、ツチガミのことをカボクを見捨てたとして喧伝しはじめた、と。
このあとに生まれた子どもたちは、そんな教育を受け続けている、ということですね。
あと個人的に逆に切なかったのは、ツチガミを追い出した大きな声をあげていた者たちはたしかにいましたが、それでもまだ彼は人の姿を保っていたので、村人にはツチガミを信仰していた人たちはいたんでしょうね。
最初の襲撃時に避難所になっていた孤児院の院長もそうですが、反対の住民にボコられてましたし。
プンプクはフォーネだけがツチガミを信じていた、と言ってましたがそんなわけないと思うんですよ。けど、ツチガミのことを信じていると口に出せば他の村人たちからどんな目に合わされるかわからないから、声を上げることが出来なかった人達もいるはず。
なんですけれども、ツチガミはそんな人達も含めて40代以上の人達を殺したわけです。
……うぅ。
だからこそキクルはガードとして行動してるわけだもんな。
見て見ぬふりも同罪、とは言いますが……私がこの場にいたとして、声を上げられるかなぁというと、自信ないです。
難しいですね。
みなさんは、どうでしょうか?
虚構に踊らされた幻術士――死を望んだのは誰か
そして幻術の世界へ。
幻のフォーネが「私が死んだのはあなたのせい」と言うのに、ツチガミは否定できません。分かり合えないのならさっさとカボクを去るべきだったのに、未練で残っていた。それは、ツチガミを思う人がフォーネ以外にもいたからではないかと、私は個人的に思ったりもするわけですが。
ただここで幻術のフォーネがこう言うのですよ。ツチガミがカボクを滅ぼそうと企てるから私は死んだ、とね。
目を見開いたツチガミは、「彼」もまた被害者なのだと気づいて幻術を破りました。そして自分の怪我を白魔法で回復します。あの折に巻き込まれたあの少女が閉じ込められているからでしょうね。
洗脳教育が、ツチガミを救った、か。
なぜ術が破られたのかとわからないワンダ。的外れだと言われて「フォーネさんを利用して」云々と叫ぶ彼ですが、キクルたちはもう分かっているのでなんとも言えない顔をして黙り込みます。
察したのでしょうね……ワンダは……利用されたのだ、と。
ツチガミはワンダに対しては普通の苦しみよりも真実を見せたほうがいいだろう、と時魔法で自身の記憶を見せました。冒頭の話から何もかも。
嘘だと叫ぶワンダですけれど、時魔法は嘘をつかない。幻術と違ってという言葉に思い出すのです。フォーネを殺すことになった流れを。村の人達とハゴンの話を。
最初は人を殺したくないと言ったワンダですが、その場に彼と同じ立場の人間は一人としていませんでした。全員で、ワンダを丸め込んで、彼を実行犯にしたわけです。彼が力を持っていたがゆえに。
今回のタイトルは、夢から醒める時……このことか。
個人的にはツチガミにとってもそうだったのかなって思います。
いつか分かち合えるのだという夢からの目覚め。
ワンダは騙されてるんじゃって想像はしてたが……実際そうだったと知ると、なんとも言えねーなぁ。
しかもワンダの感覚はまともなだけにね。
自分のしでかしたことを知ったワンダはすべての罪を認めて謝罪します。自分は悪くないと、互いに罪をなすりつけ合っていたどこぞの老人たちとは真逆。
謝罪して、他の村人は見逃してくれと言うワンダの姿に、ツチガミはどうしてワンダと同じ言葉があの老人たちから出てこないのかと口を強く噛みます。
力があるがゆえに求められて責任をすべて負おうとしている姿に、自分の姿を重ねるのです。
だから生きているのが辛いでしょう、とワンダの気持ちを察しました。それはつまり自分もそうであると言っているのとほぼ同じ。
ワンダを殺してあげようとするツチガミ。土の槍が向かいますが、それをヒュダイが弾き飛ばし、ワンダ本人はキクルが体を引いて回避してました。
ヒュダイは言います。
「俺は!
…真実が隠された環境で育てられたとして
その嘘を見抜けるほど自分が
賢い人間とは思えない……!」
ヒュダーーーーイ!
さっすがお兄ちゃん! 格好いい!
決してワンダの罪を認めたわけではありませんが、自分がワンダの立場だったら、を考えられるのは素晴らしい。
見捨てられるわけもないと言い切る彼に歓声を上げたトリューも叫びます。
「心底死にたいと思ってんなら生きろ!!
生きたい気持ちが勝ってんなら死ねぇっ!!!
人殺しが望んだ結果得られると思うなよ」
二人共格好いいねぇ!
トリューの馬鹿っぽい感じがとっても好きですが、今回一番格好いいと思ったのはヒュダイですかねぇ。ファンクラブあったら入りたい。
いや、マジで格好いいぜ!
ヒュダイの兄貴と呼びたい!
ツチガミからしたら辛いことばかりです。自分に命がけで勝負を挑んでくる人ほど、彼が愛した人間の姿に近いでしょうから。
今回はフォーネの殺害という事件からの始まりで、実際の罪を犯したのはワンダです。その罪は消えることはありません。
しかし、罪を犯した人物として、今も罪を償い続けている人物が他にもいます……そう。オックリです。
もしかしたらワンダはこのオックリのような立場になるんじゃないかと思ったり
たしかに変に罪に着せるより、ワンダみたいなやつにとっては重たい罪になりそうだな。
ハナバタたちを傷付けたどこぞのエースたちとは違って、ワンダは人格者ではあります。ただ仲間と生まれた村に恵まれなかっただけ。
神髄を使用できるほどのワンダという存在は、ギルド側からすると『利用価値』あるでしょうしね。
カンゼボウが認められているみたいに、そういう可能性はあるかなぁって。
後単純に、毎回毎回エースが変わる、みたいな流れは飽きもしますしね。
とはいえ、今の幻術なしだとツチガミに傷をつけることはとても難しいわけですが。
がくんと力が抜けるツチガミ。トリューが急に魔力量が減った、と不思議そうな中で動いたのは、我らがツッコミ……ではなく、我らが主人公キクル!
放たれた矢を手で受け止めるツチガミ。先程まで傷一つつけることは出来なかったというのに、矢はたしかにその手に傷をつけました。
あれ?
神性のある攻撃じゃないと通らないんじゃ……?
ツチガミの神性が薄れたというわけですね。
しかしツチガミが言うには子どもたち(まもの)は死んでいない……つまり!
話は変わりますが、魔物たちを「こどもたち」と呼んでいるツチガミが、悲しい。だって、カボクの村の住民たちを「こどもたち」と家族のように思っていたわけですからね。
そんな子どもたちを村襲撃に利用したのも事実ですが、その方法は間違えていたと言ってました。だからそういうのも全部含めて、ツチガミは責任を取ろうとするんじゃないかと、そんなことを思ってしまいます。
女王様とマナポーション
私の考察はさておき、洞窟の奥では魔物たちが集まって「ハデスサマ、キライ」と叫んでました。
中心に座っているのは我らがサン様。
様!?
おい、どうした! 今までそんな風に呼んでなかっただろ!
ハッ、失礼しました。
以前、キクルがサンに何かを頼んでいましたが、これだったようですね。魔物たちを操ってハデスへの信仰を削ぐ。魔物たち皆を殺さずにこんな方法ができるのは、魔物を操れるサンだけですね。
すべての魔物を操っているわけではなく、成体のみ。子供は大人に影響されるから。
でもこの子供は大人の影響を受けるっていうのは、まさしくそのままワンダたちのことだよなぁ。
すべての言葉が繋がりあって、なんとも言えない気分になりますね。
とはいえ、スキルを使うのにはマナが必要……なんですが、マナボトルのストックがたくさんあったみたいです。おそらくフォーネがここの魔物たちのためにと持ってきたもの。
しかしながらマナボトルを飲むと……もよおされるものがあるわけです。そして、かなりの数の魔物を操っているサンはそちらに集中しているため、動けません。
これ以上は言いません。……命が惜しいので……。
知りたい方は本誌で!
ただまだこの時点(24/09/30時点)でこの話の単行本はないから、15巻を待つか、ガンガン買うかだな!
もしくは14巻を買って、次に思いを馳せましょう!
まとめ
ということで、不徳のギルド第85話でした。
毎回思いますがタイトルが秀逸です。
しっかし中々辛い話だな。
命がけで戦い合っている奴らこそ幸せになってほしいと思っちまう。
安全なところでのうのうとしている人たちのほうがどうでもいい、というより苦しんでほしいと思ってしまいますね。
無罪には当然ならないでしょうが、とてもとても重たい罰にしてほしいです。死にたいと思えるほどの。
それはそれとして、サンがどうなるかもお楽しみに!
おいっ、そんな話して大丈夫か?
……あ。
(バチーン)ブチブチィッ
……(ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!)
ま、まままままったなー!
ただ愛する家族と一緒に過ごしたかっただけの彼らの物語をもう一度見たくなった方は↓単行本↓をどうぞ!