【読切紹介】アンダーアイドル――才能、夢は誰が決めるのか【ネタバレ感想】
月刊少年ガンガンを、特定の作品のためだけに買っている私ですが、ちょっと気になる読切があったのでご紹介。
それが月刊少年ガンガンの24年10月号に載っていた『アンダーアイドル』です。作者は『せつなゆうこ』先生。
私は絵柄は少年誌っぽくはなく、むしろ少女漫画っぽい雰囲気。……まぁ、最近はこういうジャンル分けも関係なくなっているのかもしれませんが。
どういうものか、とざっくり言うと『才能が可視化された世界で、それに争おうとする物語』になりますかね。
私達が住んでいる世界では才能は特に目に見えるものではありません。分かる結果は存在するかもですが、見ただけで「この人は◯◯の天才だ!」なんて分かりません。
しかしそれらが理論的に分かるようになったならば……? そしてそれが覆らないと言われたら?
この段階でどんな話なのか気になった方は、ぜひとも↓本誌↓を読んでみてください。そして……こういう世界だったなら、自分はどう生きるのか……考えてみると興味深いです。
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今回のポイント
夢を追い続けるのが正義か。夢を諦めるのが正義か。
- 職業適性テストが当然となった世界
- 夢と才能は別物
才能って何だ? 夢ってなんだ?
夢を追いかけること。夢を諦めること、どちらが正しいのか
最初のコマはキラキラと輝く職業の人たちが描かれ、「失敗も挫折もない」という文言から始まります。
そして泣き崩れる女の子と、それを見る男子。夢を見ることの意味はなんなのか、という疑問の提起。
場面は変わって、たくさんの学生たち。一見現代の学校に見えますが、どうやら職業適性テスト(作品内での略称は職テ)というものがあり、遺伝子検査やテスト結果から総合的に判断して適正な職業が判明するんだとか。
EからS判定まであって、A判定は3万人に一人という割合で、勿論そんな人は就活においてとても有利となります。むしろ企業から来るくらい。
才能がハッキリ分かるなら、余計なことに時間使わなくていい、という考え方もできるが。
才能と好きなことが分かれることはあり、その結果以外の道が開かれないのは、それはそれで息苦しそうな……?
ただまぁ夢=職業ともかぎらないので、個人的にはアリですね。好きなことは趣味で続ければいいので、それよりも自分の力を本当に発揮できる仕事につくことができるならそれが一番良い。
向いていない仕事を延々としつづけるのって辛いですからね。
クラスメイトがみんなの結果を聞いて回ってますが、主人公のは聞いてません。まだ開けてすらいないメガネの男子生徒は、「夢なんて持たない」という考えのもと「無職S」を願っていました。
は?
む、無職?
無職判定Sの場合は国から補助金がもらえて働かなくてもいいそうです……私もそれちょっと羨ましい。
そんな中、彼の用紙に書かれていたのはアイドルプロデューサーのS判定。S判定なんて偉人レベルだとか言われる世界の中ですから、それが知られたら彼の思い描いていた未来とは真逆です。彼は地味なままでいいと思っているわけですからね。
働き詰めというより、むしろ尊重された働き方できそうですけどね。
B判定以下のやつらはこき使われそうだよな……給料的にも低いだろうし。
アイドルよりもプロデューサーの方が給与高いイメージもありますし、それでさっさと稼いであがり、というのはいけそうですけどね。
まぁ高校生にそこらへんの理解はなかなか難しいかもしれません。あと、漫画なんだからそこまで気にするなという話でもありますしね。
とにかく隠したい、と思った主人公の宇佐美優生ですが、クラスメイトがそう言えばまだ彼に聞いてない、と話しかけてきます。知られたくない宇佐美。
見せたくなくて拒否する宇佐美に「どうせたいした結果じゃないんだからもったいぶるな」というようなことを言う男子生徒。中々にひどい。
そんな男子生徒を制するように口を挟んでくれたのが鬼塚めいという女子生徒。男子生徒はその子にも文句をいいますが、どうやらその男子生徒は自分が全部E判定だった腹いせに自分より悪い結果の誰かを求めていたっぽいですね。
んー、このテストの判定が後々に左右するって考えたら……全部E結果はきついなぁ。
何かしらの才能がある、という判断がされればありがたいテストですが「才能は何にもない」と言われた時の地獄……と考えると、やはりこの世界も辛そう。
一長一短ですね。
一応のピンチを女の子によって回避した宇佐美。教室では格好いいなと女の子を褒める声が上がりますが、宇佐美はちょっと怖かったみたいです。……私も実際にこの子にお礼は言いますが怖いとは思うかも。多分大声で話してるでしょうし。
が、振り返った鬼塚の笑顔はあどけない感じで可愛かったです。
見事に宇佐美とは正反対って感じだな。
ちゃんと宇佐美もお礼言っているので、お互い良い子なのは間違いないですね。
判定結果は覆らない……?
とにかく判定結果は隠せたから問題なし……と思いきや、自宅で確認するとそれは別の人のテスト結果でした。そう。あの女生徒鬼塚の。
そしてスマホにその鬼塚からのメッセージが。隣の席だったということでテスト結果が入れ替わったみたいですね。
翌朝、鬼塚めいから「あたしをアイドルにして」と宇佐美はお願いされます。
鬼塚は無職S判定ですが第一希望はアイドルでE判定どころか測定不能レベル。
でも測定不能って上の可能性もあるよなぁ。
ただ、無職Sという判定もありますし、測定不能は悪い方に捉えられるのが普通なのでしょう。
アイドルになりたいのに無理だと言われた彼女からすれば、宇佐美がプロデューサーSというのは本当に運命みたいな話。
頼まれるものの、宇佐美は首を縦にはフリません。彼は目立ちたくないですし、そもそも以前……測定結果と、夢が合致せずに苦しんでいる別の子を知っているからですね。
測定結果は覆らない。
そう告げる宇佐美の言葉を強く否定するめい。職テがすごいことは彼女も理解しながらも、覆らないのはおかしいと。そして自分はやりたいからやる、とね。
断りたい宇佐美でしたが、結果をバラすという半分脅されて、渋々彼女をプロデュースすることになりました。
自分の意志を貫ける、それはすごいなぁと純粋に思いましたが、ここが少し気になるところではあるんですよね。
判定結果を覆したいと言いながら、判定結果最上位の宇佐美の力に頼る……なんだか矛盾しているようにも感じてしまいましてね。
なるほど。
これで一流アイドルになれたとしても、宇佐美のS判定のおかげ、になっちまうもんなぁ。
これで宇佐美も無職Sで、けどプロデューサーになりたがっていて測定不能、とかだったら分かるんですが。
このお話は読切ですが、連載になるとしたらここらへんをどう持っていくのかが気にかかるところです。
夢のために自分を殺す
それから周囲には内緒のプロデュースが始まるわけですが、めいは音痴な上にダンスも微妙みたいです。どちらも笑顔でやっていて楽しそうなのは◎ですけどね。
アイドル要素などどこに、という疑問と自身に本当にそんなプロデュース能力があるのかと疑問な宇佐美。しかし宇佐美はSNSでは20万のフォロワーがいるインフルエンサー。バズるものを考えるのが得意なようです。
確実にその見抜く目、というのが判断されたのか……職テも結構正確そうだなぁ。
どこまで正確なのかは判断つきませんが、少なくともこの世界においては正しい、という判断されるようですね。
とあるオーディションを受けるというめい。その応募シートのチェックを頼まれ、一応目を通す宇佐美ですが、応募理由が「歌やダンスでみんなを笑顔にしたい」とあって「本当に?」と思わず聞いてしまいます。
めいはその志望動機を本を見て書いたんだとか。
これでは書類審査落ちるのは当たり前だと思った宇佐美ですが、ついそのまま口に出してしまいます。怒られる、と思いますがめいは純粋に「なんで?」と問い返してきます。書類審査一度も通ったことがない、という彼女。
受かりたい一心で自分を殺して、面接のことも考えて良い子の演技の練習もしているんだとか。
努力の方向性間違っている気がしますが、本気ではあるみたいですね。宇佐美は彼女の本気を知って、自身も本音で助言します。
嘘を言っていたら受からないと。
就活系の本ってそういうこと書いてるけど、つまりみんな同じこと書くんだもんなぁ。
歌やダンスを磨くのには時間がかかります。その分、本心で挑むべきだと宇佐美は言いました。
それに対して無言のめい。今日は用事ができたからもう帰る、という彼女の態度が気になった宇佐美。ダメなこと言ってしまったかと気になってしまい、ついあとを追いかけてしまいますが……彼女は花を買って、墓参りをしていました。
墓の前で夢について宣言しているのですが、どうやらお母さんもアイドルを目指していたようです。
と、ここで後をつけてきていたことがバレてしまいます。
彼女のお母さんはアイドルE判定で、それでも頑張ったそうですが売れずに終わります。しかしその映像を見て、きらきらしていて可愛いと思っためいはアイドルに憧れるようになった。
なりたい職業とテストの結果が違うのはこの世界においては当たり前のことで、このテストが導入されてからテスト結果に抗って夢を追いかける人はほぼいなくなったんだとか。
なにせ、導入後にテスト結果が覆ったことがない(少なくとも知られていない)から。
それが当たり前の世界なら、夢を諦めるのが普通……というか、夢の意味も変わってきそうだなぁ。
宇佐美は昔、「結果が出ないのは才能がないからだ」と泣く幼馴染に何と返したら良いのか分からなかったそうです。それも彼の中で何処かトラウマになっているのでしょうね。
めいは「職テがすべてじゃないと証明したい」という旨の志望動機を応募シートに書いたみたいです。
職テがすべてじゃない。才能がすべてじゃない、というのも矛盾をはらんでいる気がして、やはりこういうところが気になりますね。
職テを覆して一流アイドルになったっていう事実が、一つの才能を表している、とも考えられるし……イタチごっこか?
この話を読んで、改めて才能ってなんなんだ、ということを考えさせられ、すごく印象に残ったんですよね。
そしてその後の話は……だいぶ省略させてもらいますが、書類審査は通って第二審査はなんとステージ。
真剣に努力している姿に、宇佐美もだんだんと本当に彼女を応援したくなってきます。
本番の日。宇佐美のアドバイス通り自分らしさを出した自己紹介をするものの、審査員がめいの「無職判定S」を見て「見込みないから帰って良い」と言うのです。
観客たちも「才能ない」と彼女を見て良い、審査をしてもらうことすら出来ない状況にさすがのめいも心が折れかけますが、そこに仮面をつけた宇佐美がやって来て否定するのですよ。
ここで良いのが、宇佐美も「才能」というもの自体があることを認めているところ。
その差が努力で埋まれば良い、か。……そうだな。そういう世の中だったら良いよなぁ。
そういう世の中を夢見ている……それこそが本当の宇佐美の『夢』なのかなって思いました。
泣いていた幼馴染に、何を言えば良いのか分からなかったわけではなく、本当は「職テは関係ない」と言いたかったんだとか。
まぁ、この世界では才能=職テの結果、というのが常識ですので、私達の考える才能というよりも『誰かに決められた才能を否定する』というのが近いかもですね。
綺麗事を言っている、と一言で断じるのは簡単ですし、私自身「あまりにも才能がないことに力を注ぎまくって苦しい生活をする」のなら、才能があることを伸ばして色々と余裕(身体的、経済的、時間的)を身につけて才能がないことを趣味にできるのが一番の理想、とは考えてます。
諦め続けるのも良くはないと思いますが、時には諦める勇気も必要かなって。
この職テという、誰かから決められた才能が全てになってしまった世界観をひっくり返そう、というのがこの漫画の話です。
宇佐美は自身の職テのS判定をさらしながら宣言するわけですが、具体的な宣言内容は本誌で。中々に厨二病っぽい(褒め言葉)。
今回のオーディション結果自体はあまり良くなかったものの、その様子をSNSにあげていたらしく、そこでバズってました。どうやら宇佐美、もともとそっちを目当てにしたらしく……やはりプロデュース能力高そう。
ってか、アイドルだけじゃないだろ、プロデュース能力。
人だけでなく、商品プロデュースも出来そうですよね……やばい。
才能の塊の主人公が、才能がないと言われたヒロインをプロデュース……漫画内でもでてきましたがまさしく「ほこたて」ですね。
そう。私が作品を読む上でずっと気になっていたこの矛盾……もしも連載になったとしたら、どう持っていくのか……まじで気になる。
最後に出てくるめいの純粋な感謝の笑みは可愛らしかったし、二人の関係性にも期待できますしね。
そしてやはりなんとなく……全体的に少女漫画っぽい気はしましたね。あくまでも「っぽい」と私が勝手に感じただけですが。
まとめ
ということで、読切の「アンダーアイドル」でした。
正直、タイトル的にもっとアングラな話かとドキドキしながらだったんですが、絵柄通りの明るい作品調で良かったです。
あー、お前さん、話に精神引きずられるもんな。
私のように作品に引きずられやすい方には安心して読んでいただけるかなと思います。
正直、評価はかなり分かれそうかなとも思ったりはしています。
ただ、最初にも述べた通り、なんだかこの世界観が興味深くて、改めて「才能」とか「夢」について考えさせられる話で、心に残ったためご紹介させていただきました。
気になった方はぜひ月刊少年ガンガンの24年10月号を御覧ください。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!
まったなー!
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